犬が「噛む」には理由がある
犬の行動の「噛む」「吠える」が特に問題行動とされていてお困りの飼い主さんが多くいらっしゃいます。私たち人間同士が会話したり意思を伝える言葉があるように、犬の「噛む」「吠える」は言葉を持たない犬達の意思表示です。人間の生活環境において「噛む」「吠える」が家族や他人の迷惑となってしまうことがありますが、結果としての「噛む」「吠える」の一面のだけを問題視するあまり、犬が伝えたいことを無視して、マズルを掴んで押さえつけてやめさせようとしたり、怖がる犬を恐怖に晒して我慢させることがトレーニングだと誤解し、知らず知らず犬に噛むことを学習させているケースも少なくありません。
「噛む」理由を考える
犬の居るご家庭に伺って、よくあるパターンですが、犬が「噛む」行動を始めた時に飼い主さんが慌てて「No! ダメ!」と大きな声で犬を制する方がいらっしゃいます。この時の「No!」や「ダメ!」というコマンドが「落ち着いて!」「静かにして!」「座ってね」という意味だと犬が理解していれば、そのコマンドは有効ですが、飼い主さん本人の気持ちを言葉として声に出しているだけになっていれば、それは犬に伝わっておらず、犬との会話が成立していないことになります。犬が「噛む」という行動は、何を伝えたかったのか?叱ったり、声をかける前に理由を考える癖をつけましょう。そうした理由に合わせて飼い主がすることは、どうしたら犬が噛む行動にならずに済んだのかを考えてみることが需要です。
「噛む」行動の事例
散歩中に近づいてきた犬や人に噛む
お散歩中に出会う人がほかの犬が、好意的に挨拶をしようと近づいたところ、近づいて撫でようとした人や犬に対して威嚇して噛んだ(※A)。飼い主は犬を制しようとして、慌ててリードを引っ張り(※B)、「ダメ」と愛犬に対して怒り、噛み付いた相手に謝る(※C)。
《分析と改善点》
(A)お散歩中に出会う人やほかの犬が近づく
→この時点で愛犬が近づくことを許しているかどうか?嫌がっているのであれば無理に近づけないこと。早く気づいて愛犬のために進路を変えてあげましょう。
(B)威嚇している愛犬を制して慌ててリードを引っ張る
→リードは愛犬を事故などから守るための物です。愛犬が恐怖をを感じている原因が他人やほかの犬である場合、近づく前に愛犬が飼い主の傍に居たら安心できると感じられるよう、先にリードを短めに持ちます。リードが伸びた状態から無理矢理引き戻されてしまうのでは、犬にとって、恐怖の原因から逃げる術を奪い取られたのも同然です。
(C)「ダメ」と愛犬に対して怒り、噛み付いた相手に謝る。
→この時の「ダメ」は、飼い主さんの気持ちを言葉にしただけですね。そもそも、嫌がる愛犬を無理に人や犬に近づけてしまって起こった事です。もしも、そのような事故があった場合、速やかに謝罪を済ませ、他人や他の犬からの安全距離を保ち、長話をせずにその場を去りましょう。
遊んでいる時に手や足を噛む
愛犬と遊んでいる時、甘噛みがひどくなり(※A)、手や足を噛まれ、着ていた服の袖や裾を咥えて振り回そうとする(※B)、止めさせようとして大きな声で叱ったが聞き入れない(※C)。
《分析と改善点》
(A)遊んでいる時に、甘噛みがひどくなる
→甘噛みは犬の「嬉しい!楽しい!」の愛情表現です。その気持ちを否定せず、力加減を教えてあげましょう。噛みが強い場合は、遊びを完全にストップして、飼い主さんがその場から静かに去ってしまうなどして、楽しい遊びが無くなることを覚えさせます。
(B)手や足を噛まれ、着ていた服の袖や裾を咥えて振り回そうとする
→飼い主の手や足の動きや、それに連動する服の袖や裾の動きが愛犬の遊びの興奮を掻き立てる獲物となってしまっている場合、それに代わるロープやぬいぐるみなどのオモチャに興味を持たせるように愛犬の遊びを誘導しましょう。オモチャを与えてもなお、手足や袖・裾を噛んでくる場合、オモチャの動かし方が面白くなくて、飼い主さんの動きの方がきっと魅力的なのでしょう。オモチャは与えるだけではなく、愛犬が楽しく遊べるようオモチャの動かし方も研究が必要です。小型犬の場合、パペット型のオモチャは手を入れて動かせるので便利です。
(C)甘噛みを止めさせようとして、大きな声で叱ったが聞き入れない。
→大きな声で叱るとき、飼い主さん自身がヒステリックに怒ったり、興奮していませんか?また、女性の場合、高い声を発していませんか?興奮している犬に対して、飼い主が興奮してしまうことは同調することとなり、ますます愛犬の落ち着きから遠のいてしまいます。一旦深呼吸をして、落ち着いて行動しましょう。愛犬が行動できる「オスワリ」など落ち着いた低い声で指示を出して、犬が落ち着くのを待ちます。部屋など、犬の興味が散漫してしまう環境であれば、オヤツでハウスやクレートに誘導し落ち着かせることも有効です。
それでも手に負えない場合
「噛む」ことの行動は愛犬がこれまで経験してきた学習から引き出された行動です。積み重なった経験を紐解くことに限界を感じた場合、ドッグトレーナーなどのプロの知恵や技術に助けを求め、愛犬の安定した生活を取り戻させてあげることもぜひとも検討してみてください。トレーナーの方針も様々です。トレーナーさんが、どこまで犬に愛情を持って接しておられるかどうか、しっかり打ち合わせをして、信頼できるトレーナーを見つけて相談してみることも良いでしょう。愛犬の魅力を引き出してくれるかもしれません。